6月のある日、業務終了後、急に知らない電話番号から電話がかかってきました。
少し慌てた声で「クレジット会社から手紙が届いたんですけど、私この会社のこと知らないんです。」
続けて「時効援用ってできますか?!」と。
時効とは
お電話口の方は、れいわクレジット管理株式会社という知らない会社から手紙が届いたそうです。
しかし、その方もご家族の方も全くその会社に覚えはなく、クレジットの返済も滞っている覚えはないので困惑しているとのことでした。
ワケも分からずその会社名をネットで調べていく過程で、同じように急に手紙が届いて驚いている記事をお読みになり、そういった時の対処の一つとして「時効援用」ということをお知りになったそうです。
『時効』、と言ってもドラマや小説などで、時効成立までに犯人を捕まる、みたいに使われている『時効』は、ここでは少し違っています。それは「刑事法上」での『時効』のことです。
ここで言われているのは「民法上」の『消滅時効』のことです。こちらの『時効』は、一定期間が過ぎると支払わなきゃいけない義務から解放されるルールのこと、を意味しています。
民法166条1項 消滅時効
(他にも一定期間が過ぎると権利を得る『取得時効』というのもありますが、ここでは割愛します。)
時効援用とは
この場合は、クレジット会社から返してないお金があるよ、と連絡が来ても、それが一定の期間が過ぎているなら、返さなくてもOKになる条件が整います。
条件が整うだけ、ということにご注意ください。
一定期間が過ぎただけでは『時効』は未完成です。時効を完成させるにはその後に「時効が成立しています。私はこの時効を使って義務から免れます。」と相手側に伝えることまでが要求されます。
適切に伝えて時効が完成し、はじめて返済義務から免れることができます。
私の行政書士の先生は、時効に必要な一定期間が過ぎても、それでも返済したいと考える債務者はいるから、時間が経ったら自動的に債務をなくすのではなく、債務者の意思を明確にすることで時効を完成させる仕組みになった、と教えてくれました。
時効の完成を主張して、義務から免れる、若しくは権利を得ることを『時効援用』といいます。この場合は債権者からの請求を拒否することになりますね。
れいわクレジット管理株式会社とは
今回私がご相談を受けた方は、『れいわクレジット管理株式会社』から残高証明書と振込先口座が変更したお知らせが届いたそうです。
(お金を返済してください、みたいなことは一切書かれていないようです。)
ご相談者からのお話を一通り伺った後、私もこの会社の公式HPを見てみました。
【公式】れいわクレジット管理株式会社 (rcredit.jp)
公式HPからの引用になりますが、三井UFJニコス株式会社から分割したMU・ニコスクレジット株式会社が2019年に社名変更して、現社名になったそうです。(2024年6月現在、三井UFJニコス株式会社、三菱UFJフィナンシャルグループと資本提携はないとのことです)
この企業は、(三菱UFJニコスから会社分割により承継した)クレジット債権等の回収を事業内容としているそうです。
おそらくどこかの時点でクレジットの未清算金があるのが分かり、その債権回収をれいわクレジット管理株式会社が担当されているんじゃないかと思いますが、いつどのようにかまでは分かっていません。
(相手側も何年何月の利用かは明記していませんし)
ちょっと待って!なるべくコミュニケーションをとらないで!
さてそれでは、時効を援用すればいいんだなと、そのれいわクレジット管理株式会社に時効援用しようと電話をしますか?
もしくは向こうから電話がかかってきたから、話し合ってお支払いできないと伝えますか?
ちょっと待ってください!
どちらもお勧めできません!
というのはその会話の流れで、『私は返済する意思がある』というようなことを言わされてしまう可能性があるからです。
時効援用する前に、返済する意志があると相手に伝えてしまうと、もうその時点では時効を援用することはできなくなってしまします。(またそこから一定の期間が過ぎれば、時効援用する機会は巡ってきますが。)
私は実際にお電話したことがないので、はっきりわからないんですが、おそらくトークスクリプトはしっかり練られているのではないかと推測しています。こちら側が注意をしていても、いつの間にか返済の意思を伝えてしまうように持っていかれてしまうんじゃないかと。
もし録音されていたら、たとえ時効の条件が整っていたとしても、支払義務を負ってしまいます。
つまり、相手とコミュニケーションを始めてしまうと、相手のフィールドに乗せられてしまい、いつの間にかお金を支払わざるを得なくなる可能性があります。
内容証明郵便で時効を完成させてしまいましょう
だとしたらどうすればいいでしょうか?
コミュニケーションをとらず、こちらの主張を一方的に宣言するのです!
相手の今回のようなケースでは、時効の援用を内容証明郵便で主張する方法がポピュラーです。
内容証明郵便?またよくわからない言葉が出てしまいましたね。
内容証明郵便とは、一般書留郵便物の内容文書について証明する日本郵便株式会社のサービスです。いつ、いかなる内容の文書を誰から誰あてに差し出されたかということを、差出人が作成した謄本によって当社が証明する制度です。
内容証明 | 日本郵便株式会社 (japanpost.jp)
といっても、それほど難しいものではなく、一定の形式さえ守れば専門家でない方でも、作成することができます。
大事なのは、内容証明郵便を作成するための条件を守ること、そして時効の援用を成立させるポイントを踏まえた文書を書くことです。
内容証明郵便を作成するための条件
- 文書1通のみを内容とすること(内容文書以外の図面、為替証書、小切手、返信用封筒などを同封することはできません)
- 文字または記号(仮名・漢字・数字・英字・括弧・句読点・そのほかの記号)によって記載されていること
- 一般書留とした郵便物であること
- 字数・行数の制限(1行20字以内、1枚26行以内など)を守ること
- 謄本が2枚以上にわたる場合は契印をすること
- 差出人および受取人の住所氏名を謄本へ記載し、封筒へも同じものを記載すること
詳しくは郵便局のHPをご覧ください。
内容証明 ご利用の条件等 – 日本郵便 (japanpost.jp)
時効援用を成立させるためのポイント
内容証明郵便の中で時効を援用させるには下記4つのポイントを踏まえた文書を作成することが重要です。
- 債権の内容を特定すること
- 消滅時効期間が経過して、時効が完成しているのを伝えること
- 時効を援用することを明確に伝えること
- 借入金があることを認めていないこと
文書ができたら郵便局で、内容証明郵便をチェックしてもらい、郵送してしまいましょう。
配達証明をつけて相手側に郵送することで、上記①~④を行ったと郵便局に証明してもらうことになるのです。
本件の顛末
私は夕方に本件のご相談を受け、行政書士が代理人となり内容証明郵便で時効の援用を相手側に主張する、というご依頼を受けました。
その後、ご依頼人からその手紙の画像をLINEで送ってもらい、夜のうちに文書を作成(さらに代理人として私の記名と職印を押印し)、ご依頼人にチェックをしてもらったうえで、次の日の朝イチに内容証明郵便を送りました。
ご依頼人にはもし、れいわクレジット管理さんから電話があっても、「行政書士にお任せして内容証明郵便を送ってもらいました。この件は行政書士に任せたので、何かあればその行政書士に聴いてください。」と言ってくださいとアドバイスしました。
その後10日ほど経ちましたが、ご依頼人からも令和クレジット今のところ連絡がないので、本件はこれでこのまま終了になるのかなと思われます。
もちろん前述のように、専門家でなくてもポイントを踏まえれば解決することは決して難しくはありませんが、私のような行政書士にご相談いただければ、最速最安で、しかも行政書士の職印をダメ押しして時効援用を相手側に通達します。
このようなご面倒ごとはお任せいただくのが確実な解決手段かと思われます。